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高城高「函館水上警察」

高城高「函館水上警察」(東京創元社)
高城高「函館水上警察」(東京創元社)

図書館で棚の前を通りがかって、タイトルにひかれて借りてしまった。
まったくの偶然の出会いである。

函館出身なもので、函館と書いてあると気になってしまうが、
函館を舞台にした作品は、数はあまり多くはない。
数は多くないのに、
箱館戦争関係は食傷だし(幕末も興味ない)、
ノスタルジック青春群像は
舞台が函館である必要性を感じないので、あまり興味がない。
というわけで、手に取る作品は本当に少ない。

同じ作家の作品ばかり読んでいると読みつくしてしまうので、
時々、このように飛躍をすることがある。
表紙のイラストレーターで借りてみたり(中島梨絵さんステキー!)
新聞の書評を参考にしてみたり、
お気に入り作家の作品紹介本をたどってみたり、
お気に入りのweb論客のおススメ本をたどってみたり。
で、図書館の棚でこの本に出会った。

書かれているのは、私の知っている函館だけど、
ちゃんと知らなかった函館だった。
フィクションではあるのだが、
たぶん、本当にこういう風景が広がっていたのだと思う。
矢車草やライラックの咲く民家の庭。
ハリストス正教会の薄暗い室内。
五島軒の白い外壁。
イギリス領事館のこじんまりした佇まい(実は現在のとは違うらしい)。
ロシア領事館の入ってすぐの豪華な階段の手すりと、
サロンから見おろす函館港の景色。
(1996年までは研修施設として宿泊できたので、何度も宿泊した)
私が知っているのは「文化財」としてのそれらだ。
でも当時は文化財ではなくて、
函館に生活する人々の暮らしに身近なものだった。
五島軒でロシアンな洋食を食べたり、
宝来町の花町にくりだしたり、
基坂(もといざか、と読む)をあがって市役所に行ったり、
亀田川の水を汲んで飲料にしていたり、
ラッコの毛皮が金森倉庫に運び込まれたり、
そんな生活が確かにあったはずだ。
この本で書かれている函館を知るまで、
私はそんな景色を想像したことがなかった。
もったいないことをしたなと思う。
ま、まだ10代前半だったから、私には難しかったと思うが。

主人公は、私のおじいさんのおじいさんくらいの年齢ではないかと思う。
ひいひいおじいさん、かな。
北海道に入植したてのひいひいおじいさんと、
ひょっとしたら、街ですれ違ったかもしれない。

この本を手に、函館に帰りたくなった。
きっと新しい景色が見えると思う。
by xiaoxia | 2016-04-27 22:10 | 読む
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